こんにちは、HiroCです。
今回は株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームであるエメラダ・エクイティを利用して資金調達したスマートトレードの資本政策を紐解いていきたいと思います。
なお、登記簿及びニュースリリース等を踏まえて筆者が独自に作成した資本政策表は、下記のリンク先からダウンロードできます。
エメラダ・エクイティはすでにサービスを終了しています。
会社概要
株式会社Smart Tradeは、株式投資アルゴリズムの開発プラットフォーム「QuantX Factory」と、株式投資アルゴリズムの販売プラットフォーム「QuantX Store」の開発・提供を行っています。同プラットフォームは金融エンジニアと投資家をシームレスに繋ぎ、金融の民主化を図ることをコンセプトに開発され、2017年11月にリリースされました。
資金調達の推移
スマートトレードにおける資金調達の推移を紹介していきます。
(1) 2016年5月 会社設立
資本金250万で設立したと推測されます。2018年7月に本店を東京都千代田区に移転しています。設立後に株式分割をしていると思われますので、設立時における株式分割考慮後の株価および発行済株式数は以下となります。
【会社設立(株式分割考慮後)】
発行株式数 100,000株
株価 25円/株
資本金額 2,500,000円
(2) 2017年3月 第1回新株予約権発行
2017年3月に初めての新株予約権を発行しています。行使価額は1円となっており税制適格要件は満たしていないように見えます(税制適格要件を満たすためには、行使価額は時価以上である必要があり、設立時の株価を考慮すると時価が1円というのは説明がつきにくいと思われます)。発行の目的はおそらく経営陣の持分の是正を狙ったものではないかと推測されます。
【第1回新株予約権】
付与株式数 3,000株
行使価額 1円/株
(3) 2017年6月 第三者割当増資(普通株式)
リリースによれば、DBJキャピタル株式会社、株式会社エヌアイデイ、他1社からシードラウンドで3,000万円の資金調達を行っています。ベンチャーキャピタルが入っていますが、登記簿から優先株式ではなく普通株式による資金調達であったと思われます。プレバリューは2.2億円でした。
発行株式数 13,635株
株価 2,200円/株
調達金額 29,997,000円
時価総額(Post Money Valuation) 249,997,000円
(4) 2018年2月 第三者割当増資(普通株式)
前回ラウンドから8か月後に約3,000万円の資金調達を行っています。株価は8,800円と前回ラウンドの4倍での資金調達となりました。プレバリューは10億円と、設立からわずか2年足らずで時価総額は二桁億円を達成しています。
発行株式数 3,408株
株価 8,800円/株
調達金額 29,990,400円
時価総額(Post Money Valuation) 1,029,978,000円
(5) 2018年2月 新株予約権型クラウドファンディング(エメラダ型新株予約権)
上記の第三者割当増資とほぼ同じタイミングで、エメラダで新株予約権型のクラウドファンディング(2019年8月にユニバーサルバンクに事業譲渡)により7,000万円(第1回と第2回の合計)の資金調達を行っています。第1回目、第2回目とも個人投資家に非常に人気で、ものの数分で資金調達額に達成し、注目を集めました。
なお、転換価額が直近の第三者割当増資時の株価より若干下がっていることになりますが、プレバリューが10億円の前提での資金調達であるのと、あくまで暫定の転換価額である(後述)ため、エメラダ新株予約権者に不利な内容ではないと言えます。
【エメラダ型新株予約権】
新株予約権数 1,000個(第1回572個、第2回428個)
転換価額(暫定) 8,573円/株
割当株式数(暫定) 8,165株
調達金額 70,000,000円
このエメラダ型新株予約権は一般の新株予約権と異なりかなり複雑なのですが、特徴をざっくりまとめると以下となります。
- 投資家は新株予約権1個あたり7万円を払い込む
- 投資家への付与株式数は、以後の資金調達(1億円以上)の
バリュエーションによって決定される - 発行会社が上場した後に権利を行使可能。M&Aの場合は
新株予約権の対価を投資家は得ることができる - 新株予約権発行から10年以内にIPOもしくはM&Aされないと
行使権利が消滅する
(6) 2018年11月 第2回新株予約権発行
2018年11月に第2回新株予約権を発行しています。第1回と異なり、前回ラウンドの株価を行使価額としており、税制適格要件を満たしています。社員、役員へのインセンティブを目的として発行されたと考えられます。
【第2回新株予約権】
付与株式数 560株
行使価額 8,800円/株
(7) 2019年1月 第三者割当増資(普通株式)
ニュースリリースによれば、資本業務提携を目的として松井証券から約2,000万円の出資を受けています。しかしながら、本ラウンドは前回より約3割ほど株価が下がるダウンラウンドでした。(プレバリューは7億円)
株価、資金調達額とも半端な数字になっているので、おそらく出資額2,000万円を上限とし、出資割合についてかなり交渉した結果ではないかと推測されます。
発行株式数 3,342株
株価 5,983円/株
調達金額 19,995,186円
時価総額(Post Money Valuation) 720,263,455円
(8) 2019年7月 第三者割当増資(普通株式)
前回ラウンドから半年後に普通株式により500万円を資金調達しています。株価はダウンラウンドだった前回から25%アップしています。プレバリューは9億円となりましたが、1年半前の水準(10億円)には到達しませんでした。
発行株式数 666 株
株価 7,500円/株
調達金額 4,995,000円
時価総額(Post Money Valuation) 907,882,500円
なお、同時期にサクソバンク証券の社長である伊澤フランシスコ氏が同社の取締役に就任しています。
(9) 2019年8月 無担保転換社債型新株予約権付社債
2019年8月に2,000万の転換社債型新株予約権付社債を発行しています。特筆すべきは、投資家側に非常に有利な内容での発行になっている点です。
通常ベンチャー企業が発行する新株予約権付社債では、転換価額を時価より上に設定し、次回の資金調達ラウンドでの株価が転換価額を超えた場合(もしくは転換価額を次回資金調達ラウンドの株価とする等)に、投資家側が株式に転換できる権利を有するケースが多いように思われます。
今回は前回ラウンドの株価7,500円よりも著しく低い5,000円を転換価額としており、投資家側がいつでも新株予約権を行使できる内容になっています。
【転換社債型新株予約権付社債】
転換価額 5,000円/株
潜在株式数 4,000株
資金調達額 20,000,000円
行使期間 2019年8月9日~2029年6月30日
(10) 2019年8月 第3回新株予約権発行
2019年8月に通算で3回目となる新株予約権を発行しています。行使価額は7,500円と先月の第三者合割当増資の株価を参照しています。改めて転換社債型新株予約権付社債の行使価額が特殊であったかが分かります。
【第3回新株予約権】
付与株式数 325株
行使価額 7,500円/株
(11) 2019年12月 第三者割当増資(普通株式)
2019年12月に2,000万円の第三者割当増資により資金調達を行っていますが、再びダウンラウンドによる調達となっています。プレバリューは7億円で、2019年1月の資金調達時とほぼ同じバリュエーションでの調達となっています。
発行株式数 3,450株
株価 5,800円/株
調達金額 20,010,000円
時価総額(Post Money Valuation) 722,105,800円
まとめと所感
最後にまとめと所感を書いていきます。
(1) 優先株式による資金調達を1度も行っていない
同社は普通株式によるこまめな第三者割当増による資金調達が多く、優先株式による大型の資金調達(1億円以上)は行ってきていません。優先株式を活用しないので経営陣の考え方なのか、それとも投資家との折り合いがつかないのかは不明です。シードのDBJキャピタルを除いて、ベンチャーキャピタルからの出資はなく、個人投資家中心に資金調達を行っている可能性が高いと思われます。
(2) 新株予約権型クラウドファンディングや、転換社債型新株予約権付社債等、複雑なスキームによる資金調達を活用している
第三者割当増資はシンプルな普通株式を中心に行っている一方で、クラウドファンディングや新株予約権付社債等複雑なスキームによる資金調達を行っているのが特徴的と言えます。ベンチャーキャピタルからの資金調達の代替として、新たな資金調達方法を実験的に試しているのかもしれません。
ただし、これらの資金調達方法は直接株主を増やしてはいないものの、潜在株式数は増加しており、結果的に新株予約権発行の枠を食っているため(一般的に発行済株式数の10~15%が上限)、従業員や役員へのインセンティブのためのストックオプション付与の制限となる可能性もあります。
(3) 直近ではダウンラウンドによる資金調達を繰り返している
2018年2月の資金調達をピークとして、以後の資金調達ではバリュエーションが右肩上がりではなく上下を繰り返しており、直近もダウンラウンドでの資金調達となっています。
以前は金融業免許取得や仮想通貨事業中国事業や、法人向けの事業を提唱していましたが、近年では立ち上がる様子を見せず、引き続き日本株アルゴリズムプラットフォーム事業をメインに展開していくようです。ただし、現在の主力事業だけではマネタイズできていない可能性が高く、事業拡大に対する投資家の期待がしぼんできていることが、ダウンラウンドという結果を引き起こしていると考えられます。