こんにちは、HiroCです。
今回は株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームであるFUNDINNO(ファンディーノ)を利用して資金調達したAuB(オーブ)の資本政策を紐解いていきたいと思います。
なお、登記簿及びニュースリリース等を踏まえて筆者が独自に作成した資本政策表は、下記のリンク先からダウンロードできます。
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会社概要
AuB株式会社は、サッカー元日本代表の鈴木啓太氏が創業した、アスリートの腸内環境の解析を手掛けるスタートアップです。
フードテック分野では2019年10月に29 種類の菌を配合した独自のサプリメント「アスリート菌ミックス」を開発し、クラウドファンディングサイト「マクアケ」でも先行販売されました。
その他、腸内細菌の特許ビジネスを展開するための新菌の発見に注力しています。
また、AuBについては下記の記事で詳しく解説しています。
資金調達の推移
ここからAuBにおける資金調達の推移を紹介していきます。
(1) 2015年10月 会社設立
2015年10月に、資本金450万円で東京都渋谷区に設立されました。
創業当初から現代表取締役の鈴木啓太氏、著名事業家・エンジェル投資家の守屋実氏が参画しています。
会社設立
発行株式数 9,000株
株価 500円/株
資本金額 4,500,000円
(2) 2016年1月 増資(普通株式)
設立から3か月後に3,000万円の増資が行われており、株価は1,650円で設立時の3.3倍となっています。
今回の増資の大部分は現経営陣による出資の可能性が高いと思われます。
なぜなら、仮にこの増資が全て経営陣以外の第三者によるものであるとすれば、経営陣の株式の持分は早くも1/3の割り込むことになり、設立直後の資本政策として行ってはいけない典型例になってしまうからです。
なお、このタイミングで代表取締役が現在の鈴木啓太氏に変更されています。
増資(普通株式)
発行株式数 18,600株
株価 1,650円/株
調達金額 30,690,000円
時価総額(Post Money Valuation) 45,540,000円
本ラウンド直後の2016年3月に本店を岡山大学のインキュベーター施設に移していますが、1年後の2017年3月に現在のオフィスがある東京都中央区に移転しています。
(3) 2017年7月 株式分割
既存株式1株に対して220株への株式分割を行っています。
株式分割の結果、発行済株式数は 6,072,000株となりました。
この株式分割は、直後の株式投資型クラウドファンディングで株式募集する際に、1株あたりの金額を小さくすることが目的であったと考えられます。
(4) 2017年9月 第三者割当増資(株式投資型クラウドファンディング)
前ラウンドから1年8か月後、FUNDINNO(ファンディーノ)による株式投資型クラウドファンディングで、229人の個人投資家から3,430万円の資金調達を行っています。
株式分割を考慮すると、前ラウンドから株価は約7倍となり、プレバリューは3億円でした。
株式投資型クラウドファンディング(普通株式)
発行株式数 686,000株
株価 50円/株
調達金額 34,300,000円
時価総額(Post Money Valuation) 337,900,000円
(5) 2018年6月/2018年12月 第三者割当増資(普通株式)
前ラウンドから9か月後に、普通株式で5,500万円、その6か月後に800万円の資金調達を行っています。
株価は前ラウンドから64%アップして87円、時価増額は6.5億円になっています。
2018年6月 普通株式による資金調達
発行株式数 632,182株
株価 87円/株
調達金額 54,999,834円
時価総額(Post Money Valuation) 642,945,834円
2018年12月 普通株式による資金調達
発行株式数 91,953株
株価 87円/株
調達金額 7,999,911円
時価総額(Post Money Valuation) 650,945,745円
同社は7月決算であり、官報に2018年7月期の決算を公告しています。
これによれば流動資産は6,100万円であり、このうちのほとんどを現預金が占めると思われます。
6月の資金調達額5,500万を除くと現預金は1,000万円もなかったのではと思われます。
一方で当期純損失が約5,000万ですので、毎月のBurn rateは4-500万円程度であると推測されることから、あと数か月で資金が枯渇してしまう状況下での資金調達であったことが窺われます。
Burn rate(バーンレート)とは資金燃焼率とも言われ、1ヶ月でどのくらいの資金が必要になるかの指標です。
(6) 2019年6月~9月 第三者割当増資(A種優先株式)
前ラウンドから6か月後に、優先株式で総額2.8億円の資金調達(計3回)を行っています。
株価は120円と前ラウンドから38%アップし、時価総額は11.8億円になりました。
プレスリリースによれば、引受先は三菱 UFJ キャピタル、大正製薬、個人投資家とのことです。
出資比率は非公開ですが、一般的に銀行系ベンチャーキャピタルの平均投資額は数千万円、最大でも1億円程度と言われていることと、今回のラウンドは登記上3回に分かれていることから、三菱UFJキャピタルが1.2億円、大正製薬が1.46億円、個人投資家が1,500万を出資したのではないかと推測されます。
持分の放出は24%程度と、シリーズAにしてはやや多い印象です。
なお、調達した資金は主に「研究データを生かしたフードテック分野への参入」と「新菌発見による特許ビジネスの本格展開」に伴う、研究開発費や人件費に充当するとのことです。
2019年6月 A種優先株式による資金調達
発行株式数 999,999株
株価 120円/株
調達金額 119,999,880円
時価総額(Post Money Valuation) 1,017,856,080円
2019年8月 A種優先株式による資金調達
発行株式数 1,216,664株
株価 120円/株
調達金額 145,999,680円
時価総額(Post Money Valuation) 1,163,855,760円
2019年9月 A種優先株式による資金調達
発行株式数 125,000株
株価 120円/株
調達金額 15,000,000円
時価総額(Post Money Valuation) 1,178,855,760円
2019年7月期については、上記の資金調達中の決算となりました。
当期純損失が昨年と同程度の5,000万程度ということで、Burn rateも昨年同等と同じレベルであったのではと推測されます。
流動資産は直前に1.2億円を資金調達しているため1.3億円となっていますが、それを除くと1,000万円ほどであり、前ラウンドと同様薄氷を踏むような中での資金調達であったと思われます。
まとめと所感
株式投資型クラウドファンディングにより多数の株主を抱えてしまった場合、株主数の多さを嫌がるベンチャーキャピタルや投資家も少なくないため、次回の資金調達ラウンドが難しいと言われています。
そのような環境の中、同社はアップラウンドでプレシリーズAおよびシリーズAを成功させている数少ない事例の一つです。
代表の鈴木氏及び実業家の守屋氏の知名度もさることながら、同社の事業に対する期待の高さが窺えます。
資金調達のタイミングが資金枯渇寸前になっているのも、おそらく投資家とぎりぎりまで粘り強く交渉しているからではないかと推測されます。
一方で、ビジネスモデル上、新菌が発見されず商品開発に活かせないといった、研究開発のリスクも留意すべきと思われます。
今後も研究開発投資のための資金調達が必要になってくる可能性があります。
現時点で新株予約権が発行されていませんが、今後事業拡大により、優秀な人材獲得のためのインセンティブとしてストックオプションの付与により、株価の希薄化が発生する可能性があります。